施工ガイドライン
 
1 瓦屋根工事をするにあたって知っておきたいこと
1)屋根に求められる性能と条件(目標性能)
性能
条件
1. 安全性 災害に強いもの
2. 経済性 苛酷な条件に見合った耐久性の
あるもの
安ければよいというものではなく、
価値のある安いもの
3. 快適性 断熱性に富み、健康的なもの
4. 高品質性 自慢できるもの
5. 耐候性 わが国の気候・風土に合ったもの
6. 美観性 町並をそこなわないもの
1. 防水性 雨を漏らさない
2. 防火性 火を完全に防ぐ
3. 断熱性 寒暑を防ぐ
4. 通気性 屋根が息をする
5. 遮音性 音をさえぎる
6. 耐風性 台風に耐える
7. 耐震性 地震に強い
8. 耐力性 相当な外力に耐える
9. 荷重性 家を適当に押さえる
10. 耐寒性 凍害に耐える
2)雨漏りの原因
屋根材自体の透水・吸水性によるもの
屋根材自体の重ね目から、重ねの少ない事からの漏水
勾配の不適切なもの
屋根材の形状の不適切なもの
屋根材のねじれ等の隙間からの漏水
雨押えや谷板など板金の腐食によるもの
屋根材のヒビ割れ、ズレによるもの
不適切な施工によるもの
豪雨、豪雪などの気象条件によるもの
 
これらの原因が考えられます。
 これらを踏まえて屋根の点検を行いますが、この点検を行う場合、注意しなければならないこと
は、雨漏りと似た状況になるものに、結露があります。
 
2 施  工
1)瓦葺き作業
 住宅の品質確保等に関する法律(品確法という)は、平成11年に制定され、スタートしたものであり、在来住宅の改修工事は対象とならない。しかしながら、昭和25年に制定された建築基準法が、平成7年の阪神淡路大震災を契機として、耐震性・耐風性などの安全基準を満たす施工法へと変化し、同11年に改正・告示され追従しているのが実情である。今後の瓦屋根工事は、ガイドラインの標準工法を参考にし、防水性をはじめ屋根に求められる性能・条件を満たす施工を行うべきであります。
 
作業服・安全靴・安全帯並びにヘルメットの着用
安全作業に必要な資格の修得
作業者が屋根に昇降するための設備の設置
墜落等の危険防止のため、足場・棚等の設置
作業に先立ち監視人を配置すると共に合図の徹底を図る
作業の手順を作業員全員で検討確認する
屋根の上で踏み抜き等があるので、積み込み、運搬用の足場の設置
粉塵が発生する場合はマスクを着用する
屋根の上で作業中は、物の落下の危険があるので、その周辺の立入りをロープ等で禁止する
 
2)屋根ふき材に関する関連法令
 建築基準法、同施行令ならびに関連建設省告示に従って、構造安全性等に関わる基準を示す。
 
建築基準法
 法第20条においては、すべての建築物について、安全な構造でなければならないこと、および一定規模以上の建築物については、構造計算で安全な構造であることを確認しなければならないと規定している。すなわち、仕様(構造方法)規定と構造計算規定である。
 
 仕様規定
 
建築基準法施行令第39条
屋根ふき材は、風圧力や地震等の震動によって、脱落しないこと
 
建設省告示第109号
脱落しないように垂木、梁、野地板等の構造部材に取り付けること
緊結部材は、腐食しないように措置すること
屋根瓦は軒やけらばでは2枚通りまでは1枚ごとに下地に緊結あるいは同等の効力をもつ方法で剥がれ落ちないようにする。棟は1枚ごとに緊結、あるいは同等の効力をもつ方法で剥がれ落ちないようにすること
 
B  構造計算規定
 
建築基準法施行令第82条の5および6 (屋根ふき材の構造計算)
屋根ふき材については、風圧力・地震力に関し、構造耐力上安全であることを構造計算によって確かめなければならないと規定している。さらに、この構造耐力の安全性を確かめる構造計算方法、計算基準についても建設省告示第1454号、第1457号、第1458号に規定されている。この告示についての詳細は、瓦屋根標準設計施工ガイドラインを参照されたい。
  
 以上のような関連法令の改正と同時期に「住宅の品質確保等に関する法律」が制定されました。
この法律は、新築住宅を対象としたものであり、リ・ルーフ工事は対象にならない。しかしながら、新築住宅の構造耐力上主要な部分についての瑕疵、雨水の浸入を防止する部分についての瑕疵に関する10年保証を定めたものであり、今後、充分の品質、性能基準を満たす工法での屋根施工を行わなければならない事を示している。
 
3)下 葺 き 材
 粘土等の屋根ふき材を葺きあげる際に、これらの施工に先立って野地板などの上に下葺き材を敷設する。
下葺き材の性能 ●防水性能 ●耐久性能
 勾配屋根の防水は、屋根ふき材の防水性能と屋根勾配の大きさで行うが、補助的手段として下葺き材を使用する。この二次防水は、屋根材施工後には多くの釘穴があくことになる。そのため釘軸回りの防水性の評価が必要となる。
 下葺き材の目的として野地板上面の結露防止を求められる場合がある。これは下葺き材の選択だけで解決できる問題ではなく、小屋裏換気や天井板に防湿層を設けるなどの対策が必要である。ここでは根本的な結露防止策・制御策がとられていることを前提としている。
 
材料及び工法
アスファルトルーフィング
 下葺き材に使用するアスファルトルーフィングは、改質アスファルトルーフィング(ゴムアスファルトルーフィング。及び同等品もしくはそれ以上のもの)である。
 工法は、軒先より葺きはじめ隣接するルーフィングの重ね幅はシートの長手方向は200mm以上、幅方向は100mm以上とする。ルーフィングのたるみやしわを生じないように行う。必要に応じてステープル釘を用いて留め付けを行う。
 2層張りとする場合は、下層のルーフィングの重ね部と上層の重ね部が重ならないようにする。
 谷、棟部分は二重張りとする。
 壁との取り合い部は野地板上より300mm以上立ち上げる。
 
4)桟  木
 桟瓦を取り付ける方法は、下地に桟木を取り付け、瓦を引っ掛けて緊結材で留付ける引っ掛け桟工法と、桟瓦を直接下地面に置き緊結材で留付ける直葺き工法の2種類がある。
(1)引っ掛け工法
 引っ掛け桟工法には桟瓦の施工及び補助方法によって右図の2種類がある。引っ掛け桟工法は、下地の上に下葺き材を張り、桟瓦の働き長さ寸法で割り付け後、墨打ちを行い桟木を留付ける。
 桟瓦用の桟木は、瓦の働き長さで下地に割り付け墨打ち後、桟木用釘で留付ける。桟木の留付けピッチは400mm程度、あるいはたる木毎とする。(下地材と、桟木の間に水切層を設ける)
 硬質木片セメントパネル、ALCパネルなどの耐火野地の場合は、一般の釘、ビスでは保持力が得られない場合があるので素材に適合した釘又はネジなどを選ぶ必要がある。耐火野地に適合した桟木を留付ける釘等の種類は次のとおりである。
  硬質木片セメントパネル:木ネジ、タッピングネジ等
  薄型ALCパネル:ステンレス製専用釘、ボルトナット、専用アンカー等。
 コンクリート打ち放し下地には、アンカーボトル等で流し桟木を取り付け、下地とするための不陸調整を行った後に、瓦働き長さで割付を行い桟木を留付ける。

通常桟木取り付け

流し桟下地
(2)直葺き工法
 直葺き工法は、下葺き材の上に直接桟瓦を置き緊結材で留付ける工法である。ただし引っ掛け桟を使用しないので全ての桟瓦を必ず緊結材で留付ける。この工法は全ての荷重を緊結材にたよっている。また桟木による落下防止も期待できないので緊結材の選定や良質の下地が必要であり、補強材についても十分に強度が確保出来る材料を吟味することが必要である。
(3)桟木の標準工法の詳細
 標準工法の基準風速等に依存しない共通の下地条件、緊結材の材料、補強材などは以下の通りである。
1) 建築物 2階建て 平均屋根高さ 7m
2) 下 地 合板 12mm 挽板
3) 桟 木 杉材等 15mm×28mm以上
4) J形 53A
S形 49A
F形 40
 なお、用いる緊結用釘等の仕様は特記がない場合以下のものとする。
5) 瓦緊結用釘及び、補強用材
寸法:2.4Φ×45mm以上
軸部:スクリュー回転止め加工
材質:ステンレス(SUS304)
 
6) パッキン付きステンレスネジ
寸法:4.0Φ×75mm以上
ポリオレフィン系パッキン
材質:ステンレス(SUS304)
 
7) 7形釘 セブン釘
寸法:2.7Φ×45mm以上
軸部:リング加工
材質:ステンレス(SUS304)
 
5)瓦屋根標準設計・施工ガイドラインによる標準工法
 上記の法令・告示等に従った「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」を参考に瓦屋根工事に於ける標準工法を示す。瓦屋根工事においても、今後、性能保証まで要求されるものと思われる。
(1)ガイドラインの目的
粘土瓦および厚形スレート施工工事の設計および施工を対象とする。
法令に準拠して風圧力や地震力に対し屋根ふき材の緊結等に必要な構造性能を明らかにする。
屋根ふき材の緊結等に必要な構造性能を確認するとともに標準試験方法で確認された構造性能を示す。
法令の仕様規定対応した標準施工方法を例示するとともに標準試験方法で確認された構造性能を示す。
法令の構造計算規定への対応方法を示す。
その他、耐久性能・防水性能等についての設計・施工法のキーポイントを設計者・施工者に理解、知らしめる。
以上のように、ガイドラインは瓦屋根の構造性能の確保と第三者への説明を容易にするために作成された。
(2)ガイドラインの標準工法
 平 部
 平部(軒先部、袖部を含む)については、一般的に風圧力が最も厳しい外力である。法令の構造計算規定では、基準風速が9段階に分けられているが、ガイドラインでは、32m/s未満、38m/s未満、38m/s以上の地域と3段階に分けている。参照→基準風速(東北地方)ガイド
標準的なJ形(和形)桟瓦
(a)標準風速32m/s未満地域 基本として平部2枚に1枚の留め付け
(b)基準風速32m/s以上、38m/s未満地域 基本として平部全数の留め付け
(c)基準風速38m/s以上地域 基本として構造計算規定で対応
標準的なS形桟瓦
(a)標準風速32m/s未満地域 基本として平部2枚に1枚の留め付け
(b)基準風速32m/s以上、38m/s未満 基本として平部全数の留め付け
(c)基準風速38m/s以上地域 基本として構造計算規定で対応
標準的なF形(平板)桟瓦
(a)標準風速32m/s未満地域 基本として平部全数の留め付け
(b)基準風速32m/s以上、38m/s未満地域 基本として平部全数の留め付け及び補強
(c)基準風速38m/s以上地域 基本として構造計算規定で対応
 
 これらの詳細は後に示す。なお、地形の影響等により風速の増大が見込まれる場合はこれに対する適切な配慮が必要である。なお、一部構造計算規定を満足しないものもあるが、近い将来、構造計算規定の要求性能レベルまで引き上げられることが望ましい。
 
B
 棟 部
 棟部については、一般に地震力が最も激しい外力となる。地震力としては水平方向に1Gの加速度が作用するとして試験に合格した施工方法を採る。
 基本として棟芯材、棟補強金物を用いる。これは、加速度1Gによる地震力に対し脱落しない性能を有するものとされる。
 
(3)工法の概要
 ここでは、2階建て住宅を想定した場合の基準風速毎のおよその仕様を紹介する。詳細は次頁以降を参照されたい。なお、「※可能」は、割り引いた試験で合格したものであることを示す。
<注>「可能」は瓦緊結用釘として回転止め加工2.4Φ×45mm以上使用した場合。
 
   J形瓦工法毎の耐風性能
 
   S形瓦工法毎の耐風性能
 
   F形瓦工法毎の耐風性能
(4)工法の詳細
 平部の施工(軒先き、袖含む)
 構造試験において、基準風速と屋根高さから算出した以上の耐力を有するものを採用する。
以下に書く瓦種別毎に、この条件を満たした仕様の例を示す。
 
<基準風速32m/s未満の場合>
(a)一般部(ピーク風力係数-2.5)
(@)J形瓦

J形瓦ちどり緊結例

J形瓦全数緊結例
(A)S形瓦

S形瓦ちどり緊結例
(B)F形瓦

F形瓦全数緊結例

F形瓦全数2ヶ所緊結例
 
(b)軒部(ピーク風力係数-3.2)
 軒瓦はすべての瓦について上端重ね部(尻部)2ヵ所を桟瓦用釘で、さらに桟山をパッキン付きステンレスネジあるいは、端部重ね部(差し込み部)を7形釘で補強を行う。
 なお軒瓦の桟山に緊結線用の孔をあけ、緊結線で留付ける方法も考えられるが、引き上げ性能については未確認のためここでは掲載していない。
 
(@)J形瓦

パッキン付きステンレスネジ補強例

ステンレス 7形釘補強例
(A)S形瓦

パッキン付きステンレスネジ補強例

ステンレス 7形釘補強例
(B)F形瓦

パッキン付きステンレスネジ補強例

ステンレス 7形釘補強例
 
(c)袖部(ピーク風力係数-3.2の部)
(@)J形瓦
 袖瓦の留付け方法は尻部を瓦緊結用釘2本で緊結し、補強として桟山又は平部の垂れ側にパッキン付きステンレスネジで留付ける。角瓦に付いても同様である。
 なお、袖瓦の桟山又は平部に緊結線用の孔をあけ、緊結線で留付ける方法も考えられるが、引き上げ性能については未確認のためガイドラインには掲載していない。

パッキン付きネジ桟山補強例

パッキン付きネジ平部垂れ側補強例
(A)S形瓦
 S瓦の袖の緊結方法は垂れ部にパッキン付きステンレスネジ2本、山部(尻部)にステンレス釘等を1本を使用して留付ける。

S形瓦袖瓦の補強例
(B)F形瓦
 F形瓦の袖瓦は基本型として2種類がある。一つは、桟瓦に垂れが付いた一体型袖と、S瓦の袖と同様に後付けがある。一体型袖の取り付けは、尻部に瓦緊結釘1本以上と露出部の軒側をパッキン付きステンレスネジ1本で補強を行う。後付け袖の場合も、尻部を1ヵ所と側面からはパッキン付きステンレスネジ2本を使用して留付ける。

F形瓦一体型袖瓦の補強例

F形瓦後付け型袖瓦の補強例
 
<基準風速32m/s以上〜38m/s未満の場合>
(a)一般部(ピーク風力係数-2.5)
(@)J形瓦

J形瓦全数緊結例
瓦緊結用釘として、回転止め加工2.4φ×45mm以上を用いれば基準風速(Vo)が36m/sの地域にも、この全数緊結で対応が可能である。
 

J形瓦全数緊結+3列毎パッキン付きステンレスネジ補強例
この工法は、基準風速(Vo)が38、40m/sの地域についても可能である。
 
(A)F形瓦

瓦緊結用釘全数緊結+パッキン付きステンレスネジ3列毎補強例
この工法は、基準風速(Vo)が38m/sの地域についても可能である。
 
(b)軒部(ピーク風力係数-3.2)
 Aの(b)軒部(ピーク風力係数-3.2の部)と同じ
 
(c)袖部(ピーク風力係数-3.2の部)
 Aの(c)袖部(ピーク風力係数-3.2の部)と同じ
 
基準風速38m/s以上の場合
(a)一般部(ピーク風力係数-2.5)
(@)J形瓦

J形瓦全数緊結+3列毎7形釘補強例
 

全数緊結+2枚毎パッキン付きステンレスネジ補強例
 

J形瓦瓦緊結用釘全数緊結+2枚毎7形釘補強例
 

J形瓦組み合わせ瓦瓦緊結用釘全数緊結例
 
(A)S形瓦

S形瓦瓦緊結用釘全数緊結例
 
(B)F形瓦

瓦緊結用釘全数緊結+パッキン付きステンレスネジ2枚毎補強例
 

F形瓦瓦緊結用釘全数緊結+2枚毎7形釘補強例
 
 
B  棟部の施工 
a)のし瓦積み棟
 山形金物、芯材受け金物プレス一体型及び、山形金物芯材受けを棟木又は、下地の棟部に所定の間隔で固定する。山形金物の、その受け金物に棟補強用芯材を取り付け、モルタルを使用してのし瓦を積み上げながら、のし瓦の左右を緊結用線で緊結し所定の棟高とする。冠瓦は、最上段ののし瓦の上に冠瓦幅の6割程度モルタルを置き、冠瓦を伏せ補強金物より緊結する。
<参考例>

補強金物による棟のし瓦積み棟例
 

補強金物による棟のし瓦積み棟例
 

補強金物による棟のし瓦積み棟例
 
b)冠瓦伏せ棟
 冠瓦1枚で棟を納める。冠瓦の取り付けには、まずのし瓦積み棟の場合と同様、棟補強金物等を用いて芯材を取り付ける。次にモルタルを冠瓦の幅の6割程度、棟頂部に置き、その上から冠瓦を棟補強金物の芯材に緊結する。

F形瓦用棟例
 
 
C  壁際の施工 
a)登り詰めた水平な壁際の納まり

平行壁際収まり
 
b)流れ壁際の納まり
 下屋根の側端が垂れ壁に接するところの、のし瓦の施工方法はa)と同様であり、桟瓦の下には捨て水切りを取り付ける。

流れ壁際収まり

捨て水切り
 
 
D  谷部の施工 
 谷部の施工については、両側面に水返し加工を施し、中心を谷断面角度に折り曲げた金属板を取り付ける。谷トイと、谷縁瓦の重ね幅は、水返しから60mm以上とする。桟瓦を谷縁瓦に使用する場合はダイヤモンドといし等で切断し切り口を滑らかに加工する。瓦の留め付けは、谷縁瓦を加工する場合に釘穴部分を切落したときは、釘穴を設けて、ステンレス釘で留め付ける。またその場合、谷板金の上になって緊結ができないときは、隣接する瓦に接着剤または緊結線で固定する。なおこの場合、特に屋根勾配に注意し、縦横の通りを正確に葺上げる。谷金属板は銅版0.4mm以上、ステンレスの場合は0.3mm以上またはそれと同等以上のものとする。

谷部の収まり
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