日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク
Japan NGO Network for CEDAW (JNNC)


CEDAW事前作業部会への
日本NGO発言内容
(日本語版)

1. NGOネットワーク 山下 (はじめに)
 敬愛する女性差別撤廃委員会作業部会委員ならびに事務局の皆様、私は山下泰子と申します。
 まず、最初に、日本のNGOを代表して、この作業部会が、私たちに発言の機会を提供してくださることに心から感謝を申し上げます。
 2002年12月、女性の人権に関心を持つ日本のNGOは、連帯して「日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク」を結成いたしました。ネットワークを構成する20以上のNGOが、日本レポート審議の行われる第29会期女性差別撤廃委員会の開催前に、NGOレポートを提出することになると思います。
 本日は、以下の5つのNGOから13人の代表がニューヨークへまいりまして、この女性差別撤廃委員会会期前作業部会に出席しております。それらは、、「国際女性の地位協会」、「日本弁護士連合会」、「ワーキングウィメンズ・ネットワーク」、「自由人権協会」と「反差別国際運動日本委員会」(発言順)です。
 皆様にお配りしたファイルには、それら5つのNGOのレポートと、今回、代表を派遣することができなかった「均等待遇アクション2003」、「日本婦人団体連合会」、「VAWW-NET ジャパン」と「石原都知事の『ババア』発言に怒り、謝罪を求める会」の4つのNGOのレポートが入っております。
 私たちは、女性差別撤廃委員会による女性差別撤廃条約のモニター・プロセスに貢献できますことを大変うれしく存じます。それでは、NGOからの意見表明をはじめます。
2. 国際女性の地位協会 渡辺
 国際女性の地位協会を代表して、特に、最重要点として以下にあげる6分野にわたる問題についての意見を発表いたします。

第2条(バックラッシュ、選択議定書)
 まず、第2条に関連して男女共同参画社会基本法へのバックラッシュについてお話したいと思います。基本法の制定以降多くの地方自治体が男女平等を実施していくための条例を制定しております。しかし、保守的な人々からの「女らしさ、男らしさを否定せず」といった、法の価値を無にするような意見が条例に書き込まれたり、主要新聞でも、こうした動きを支持する論陣を張るものも出てきています。
 女性議員数が極めて少ない地方自治体において、根強いステレオタイプに基づいた慣習や考え方を変えて男女平等社会を構築するための条例を策定するのは非常に困難な状況であります。是非、これらのバックラッシュという障害を除去し、地方自治体が真の男女平等に基づく条例作りをできるような環境をつくるために、政府がどのような措置をとろうとしているのか確認していただきたいと思います。
 次に、政府は選択議定書の批准が遅れていることについて、「司法権の独立」を侵す危険性を理由にしていますが、前CEDAW委員であり、検察官も務めた多谷千賀子氏は、選択議定書の受け入れに積極的な意見を述べていましたし、最高裁判所事務局も、批准に反対をしていないと述べていたと聞いています。ゆえに、政府の理由付けは根拠のない言い訳にすぎません。政府に対して、選択議定書の批准を妨げている障害について、司法権の独立との関係を含めて明確に説明し、早急に批准するためにとるべき実質的な措置を表明する事を求めてください。

第4条 (一時的特別措置)
 第3に、4条に関連して、男女平等参画社会基本法はポジティブアクションを認めているにも関わらず、政治や公的分野ではそれを実施するための行動がとられてこなかったことについてお話したいと思います。私たちは、政治家、裁判官、検察官の男女の不均衡な数を是正し、特に高い地位に就く女性の数を増やすポジティブアクションを求めます。また、民間分野においても、男女雇用機会均等法のポジティブアクションは、雇用主の自発的行為に任され、実質的効果をあげておりません。これについては政府に対して、雇用主に実施状況に関する報告義務を雇用機会均等法で課し、今後必要な是正措置をとる手段にすることを要望してください。

第10条(教育)
 10条に関連しては、政府が学校教育において伝統的な性別役割分担を正すためのカリキュラムの設置を行っていないことについてお話したいと思います。実際、いくつかの教科書は検定において、多様な家族形態についての記述を削除するように求められました。また、日本にはまだ公立高等学校における男女共学が達成されていない地域もあります。これらの問題は、日本における大きな課題であり、政府に早急の対応を促していただきたいと思います。

第12条(健康)
 女性と健康については、まず10代の中絶件数が急激な増加を続けているにもかかわらず、必要な性知識を与える教育が欠けている事実があげられます。10代の子どもたちは、商業的性情報が氾濫するなか、保守派の反対で、必要な性教育を受ける機会を奪われています。政府に対して、生徒達が必要な性と体に関する実質的な情報を与える教育を実施し、大人についても、リプロダクティブ・ヘルスと権利についての認識を高める政策を強く求めます。

第13条と5条 (性別役割分担と税制・社会保障制度)
 最後に、13条と5条に関連して、現在の社会保障と税制度は、女性を無収入もしくは低収入者に抑え、「主たる家計保持者に依存する妻」という立場であることを奨励するような制度となっています。いいかえると、政府は女性が家で家事をする母として行動することを制度的に奨励しています。政府は社会保障と税制度を早急に見直し、性別役割分担を再生産しないような仕組みづくりをしなければなりません。このことは最重要課題として取り組んで欲しい事柄です。
3. 日本弁護士連合会 安藤
 女性差別撤廃委員会の委員の皆様に発言の機会をいただきましてありがとうございます。私は安藤ヨイ子と申します。日本弁護士連合会を代表して、皆様に当会の所見をお知らせします。

1、条約第11条に関連して、賃金統計の取り方について
  政府はパートタイム労働者を含めた男女の賃金格差を報告していません。日本ではパートタイム労働者、派遣労働者など非正規労働者は、女性労働者の約2分の1に達していますが、政府は非正規労働者を含めた賃金の男女格差を明にしていません。これでは男女の賃金格差の実情は明らかになりません。
  どうぞ、パートタイム労働者及び派遣労働者を含めた男女の賃金格差を明らかにするよう政府に訊ねてください。また、政府がパートタイム労働者を含めた男女の賃金格差を報告しないのは如何なる理由なのか訊ねてください。

2、条約第5条に関連して、役割に基づく偏見と慣行の撤廃について
  第4回政府報告書は、事業主が自主的に取っている対応について記述するのみで、政府が取った具体的施策及び予算に付いての記述はなく、第5回政府報告書においては単に広報活動としてのメディアの記述があるだけです。
  メディアにおける女性の参画及び役割に基づく偏見と慣行の撤廃について政府の予算を含めた施策について政府に質問してください。

3、条約6条に関連して、性産業について
  1995年に女性差別撤廃委員会は最終見解において、日本政府に対して、性産業についての研究に取り掛かること、その結果につい次回報告書に情報を提供するよう求めました。しかし、政府は関連諸法の取り締り結果、検挙者の数などの統計数字を報告するのみです。
  政府に対して、売買春及びいわゆる「風俗産業」の実態調査の資料があるのか、特に少女に対する性的搾取の事例について調査資料があるのか、また人身売買ないし奴隷類似行為の対象となった女性に対し、どのような例えば緊急医療費の援助のような保護制度があるのか、訊ねてください。又出入国管理手続中の暴力及びセクシャルハラスメントを防止するための措置に付いて報告を求めてください。

4、条約第16条に関連する家族法の改正について 
  女性差別を撤廃するために家族法を改正する必要性はこれまでと変わりがありません。なぜならば、婚姻最低年齢及び待婚禁止期間について国民の意見は分かれていません。夫婦別姓について反対する人よりも賛成する人の数は上回っています。従って民法を改正を行わない理由はありません。
  政府に、何時政府は、婚姻最低年齢及び離婚した女性の再婚禁止期間ならびに婚姻後の同氏強制制度における男女差を撤廃するために民法を改正するのか。民法を改正について何が障害となっているのか訊ねてください。
   さらに、政府報告書には婚外子に対する差別に関する記述が全くありません。全ての子どもは等しい保護を受ける権利があるにもかかわらず、政府は婚外子に対する国籍の取得及び相続分差別について何らの措置を取っていません。
政府に、婚外子に対する差別をなくすために取られた立法、行政上の措置について報告を求めてください。

5、「従軍慰安婦」問題について
  第4回及び第5回政府報告書はいずれもアジア女性基金について記述するだけです。又政府報告書には中学校及び高等学校の教科書に従軍慰安婦問題が取り上げられていると報告していますが、2001年には従軍慰安婦問題を取り上げていた教科書出版社6社が取り上げるのをやめており、取り上げているのは、1社のみとなっています。
  政府に対して、なぜ日本政府は関連国連諸機関の助言に従って、「従軍慰安婦」問題の真相を究明し、法的責任を果たすために損害賠償及びその他の被害回復措置を取らないのか、政府はこの問題について今後どのように対応するのか訊ねてください。

 私は皆様方にもっと情報を提供したいと思いますが時間がありませんので、日弁連の文書をご参照下さい。
4. ワーキングウィメンズ・ネットワーク 西村
CEDAWの委員の方には、お忙しい中私たちの意見を聞いて頂き、ありがとうございます。私は通訳の大中と申します。日本国と、住友電工・住友化学を相手に男女差別是正裁判をしている原告とそれを支援しているWWNに変わって発言します。裁判で明らかになった日本の男女差別の実態や提案をレポートにまとめ、訴えに来ました。
私は西村かつみです。高校卒業後すぐに住友電工に入社し、現在勤続37年になります。
私は石田絹子です。高校卒業後すぐに住友化学に入社し、現在勤続40年になります。

 私たちは同期同学歴で同じ事務職として入社した男性との賃金差別を争っています。男性たちは、入社後数年で総合職へ職種転換し、その後順調に昇進し管理職になっています。住友電工では女性は転換の機会は全くありませんでした。住友化学では転換制度はあったものの、女性にはハードルが非常に高かったのです。女性が転換の要望をすると、「目立つ仕事ばかりしてもらっては困る。銃後の守りに徹してくれればよい」と言われ、女性たちは殆ど一般職に据え置かれたままです。その結果、同期同学歴の男性たちと比べ月収で最高約25万円の差、男性の60%の月収です。人格権を否定された思いで、本当に口惜しい気持ちで一杯です。
 94年の前回の日本審査の時、私たちはCEDAWにカウンターレポートを提出し、審査の傍聴に来ました。そのとき、委員会から次のような的確なコメント
(均等法が導入されているのに、差別が続いていることに注目する。
政府は民間企業に均等法を守らせ、間接差別をなくすための措置をとり、報告すること。)
を出していただきました。私たちは条約のすばらしさに確信をもち、95年に日本で裁判を始めたのです。しかし5年後の2000年、原告全面敗訴のジェンダーバイアスに満ちた判決が出されました。
 判決は、「男女で著しい賃金格差があった。その理由は男子は全員が幹部候補要員としての採用区分であり、女性はそこから排除され、一般職に固定されていたことである。これは『性別による差別を禁じた憲法14条の趣旨に反する』、としました。しかし、私たちが入社したころ、男子は経済的に家庭を支え、女子は結婚して家庭に入り家事育児に専念する、という性別役割分担意識が強く、女性は早く退職する非効率な労働力であった。また会社にも利益を追求する権利が保証されている。したがって会社が、男女別の採用区分による労務管理をし、その結果賃金に格差が生じても、違法とは言えない」、として、社会意識と企業の効率を優先して、私たちの訴えを棄却したのです。私たちは直ちに控訴し、現在高裁で係争中です。
 またこの裁判の中で、国は、昨年11月に提出してきた書面でも、「条約は全ての差別を即なくせと言っていない。またたとえ男女別採用が原因で、現在も差別が継続しているとしても、それは条約批准以前のことで、条約に遡及効はないので適用できない」と主張。日本国憲法の趣旨を捻じ曲げ、社会意識等を理由にして国際条約違反の主張をしています。

 私たちは、条約が正しく適用されて、採用区分さえ違えておけば差別にあたらない、といった間接差別を禁止するよう強く求めます。委員会が勧告してくださった9年前に、間接差別をなくすための措置をとっていれば、私たちの裁判はもとより、今日本中に蔓延しているパートや派遣といった雇用形態が違うことによる著しい差別の是正についても効果があったと思います。私たちは、次の判決には是非勝ちたいと思い、条約の正しい解釈をするよう、国に対し迫っています。
 また今回、ワーキンググループの皆さんには7月の日本審査に向けて、日本の働く現場での差別実態を御理解いただくために、日本政府を問いただして頂きたいことをまとめました。どうぞご検討ください。
5. 自由人権協会 斎藤文栄
 自由人権協会の斎藤文栄です。主に三点について述べたいと思います。

 第一には、人権擁護法案によって導入される新しい人権救済制度の枠組みについてです。
 男女共同参画社会基本法は、国が苦情処理のために必要な措置を講じることを定めており、日本政府は、人権擁護法案を昨年、国会に提出したところです。しかし、この新たな仕組みは、(国内人権救済機関のあり方を定めた)国連のパリ原則にのっとっていないばかりか、その有効性において、いくつかの問題点が指摘されています。

主要な問題点は、独立性にあります。新たな人権救済制度である国内人権委員会は、法務省の支配下に置かれることになっています。政府が委員会の独立性を維持できるかは非常に疑問です。加えて、法案は、公務員による人権侵害をほとんど救済しませんし、政府の政策も対象からはずしています。このような問題を抱え、NGOや野党からの批判もあり、国会での審議は先送りされています。
 この法案は廃案とし、抜本的に見直すべきだと考えます。

 第二点は、公における差別的発言とセクシュアル・ハラスメント、そして女性の公職における低い参画率の問題です。
 近年、最も問題となった発言は、石原慎太郎東京都知事によって行われたものです。彼は、「生殖能力を失った高齢女性は生きている価値がない」とする趣旨の発言をしました。
 この発言に先立つ数ヶ月前には、人種差別撤廃条約委員会(CERD)が石原都知事の他の差別的発言について、日本政府に懸念を表明しています。にもかかわらず、政府は、何ひとつとして対策を講じてきていませんし、石原都知事も差別的発言を繰り返しているのです。
 残念なことに、公の職場において、特に、国や地方の議会においてですが、差別的発言を行っているのは石原都知事だけではありません。
 日本政府は公務員や公の機関による差別的発言や行為を十分に認識し、必要な措置をとるべきです。政府はまた、将来、同じようなことが起きないように職場における適切な訓練を施すべきだと思います。

 最後の点は、保健における差別に関し、男性助産婦の導入の問題についてです。
 2001年の法改正で、「助産婦」は「助産師」に改称され、政府は、この変更を男女平等の観点から、肯定的に捉えているようです。しかし、この変更が近い将来、男性助産師の導入に道を開くものではないかと大変懸念しています。
 助産婦は分娩の前後にあたり、長時間妊婦に密着して性器へのケア等を行います。妊婦にとって同性によるケアが必要であることは、障害をもつ人や高齢者と変わらず重要です。
 日本政府は、妊産婦のプライバシー権、選択権を保障するために必要な措置を講ずるべきです。

6. 反差別国際運動日本委員会 斎藤文栄
 反差別国際運動・日本委員会の斎藤文栄です。日本に住むマイノリティ女性に対する複合差別の観点からお話させていただきます。

年次報告書には、政府は領内に住む全ての女性の状況に関する一般的な見解を示すことになっていますが、日本政府は外国籍女性や被差別部落、アイヌ民族、沖縄に住む人々などのマイノリティ女性の状況を含んで報告していません。(「マイノリティ」グループに関する詳細は、添付資料をご覧下さい。)
 日本政府は、マイノリティ女性の置かれた状況やマイノリティ女性に対しとられた措置について報告する必要性を十分認識するべきです。
 
マイノリティ女性が直面している状況を把握するためには、まず日本政府がマイノリティ女性に関する統計の収集や、実態調査を行うことを提案します。マイノリティ女性、特にジェンダーと人種の交差する視点は、すべての統計、調査、分析で考慮されるべきです。
 言うまでもありませんが、マイノリティ女性の抱える問題を取り除き、ニーズにあったサービスや支援を提供するための政策や行政措置の策定、そしてその施行の際には、政府はマイノリティ女性の(政策決定過程への)効果的な参画を保証すべきです。政府や地方自治体の審議会に、マイノリティ女性を登用することなどは方法のひとつです。
 最後に、日本政府は、ジェンダーならびに民族的および種族的集団ごとの社会・経済的データ、性的搾取や暴力などのジェンダーに関連した人種差別を防ぐためにとられた措置についての情報を含んだ報告書を準備するべきだということを勧告します。
 このポイントは、人種主義撤廃委員会(CERD)から2001年に日本政府に対して出された最終所見でも、指摘されています。(南アフリカの)ダーバンで開かれた反人種主義・差別撤廃世界会議でも、女性差別撤廃委員会(CEDAW)とCERDのよりよき連携が強調されました。この会議では更に以下の点が確認されました。女性差別撤廃条約の締約国は、人種主義や、人種差別、外国人排斥、関連する不寛容を含む、女性に対するあらゆる形態の差別を予防するために、(あらゆる政策に)関与していくべきであるということです。
 複合差別の視点を政策に反映していくために、CEDAWから日本政府へ強く働きかけていただくことを期待します。
7. NGOネットワーク 山下 (おわりに)
 私たちは、女性差別撤廃条約の重要性をじゅうぶんに認識し、日本において条約を通じて、女性の地位向上を図りたいと考えております。そのような見地から、女性差別撤廃委員会と日本政府との間で、建設的かつ有効な対話が行われることを期待しております。それとともに、日本のNGOも、また、女性差別撤廃委員会による審議の前後に日本政府との対話の機会を設けたいと考えております。
 私たちにこの機会を提供してくださいましたことに重ねて感謝を申し上げ、私たちの本日の意見表明が委員の皆様に有益なものであってほしいと願っております。
 ご静聴まことにありがとうございました。
 

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